2013年4月25日(木)2013-04-26

 岡村淳さんの新作『リオ フクシマ』を「優れたドキュメンタリーを観る会」 での上映で見に行った。途中から、我を忘れて興奮してしまった。こういう作品を待っていました!
 作品の概要については、こちらをご覧ください。
 見終わってまず心に浮かんだ言葉は、黒澤明『七人の侍』の名ゼリフ「勝ったのは百姓たちだ」。まさか私のほうが思い出すとは。刊行されたばかりの岡村さんの著書『忘れられない日本人移民』(港の人・刊)に私が寄稿したエッセイ「七人の移民」でも書いたように、岡村さんが好んで使うフレーズなのだ。
 恥を忍んで正直に言うと、『リオ フクシマ』がベタに反原発を連呼する作品だったらどうしようと、ほんの少し心配だった。まったく岡村さんに対して失礼極まりない、懸念だった。この十数年、何を見てきたんだ、と恥ずかしくなった。今日の岡村さんご自身のトークにもあったとおり、水俣のことを撮り、ブラジルの土地なし農民運動を追ってきた、それらの作品を見れば、岡村さんがどこにもっとも寄り添おうとし、限りない共感と限りない相対化を同時にその作品に収めてしまうか、わかっていようものなのに。
 見方によっては、脱原発に関わっている人の一部の神経を逆撫でするかもしれない。でもこの作品は、きわめて腹の据わった反原発映画だ。活動をしている人へのリスペクトにも満ちているし、運動を揶揄したり軽蔑したりしているのでもない。ただ、リオで行われたあのシンポジムの場で、最も声がかき消されてしまった人の理のある言葉に、岡村さんは深く共振したのだ。それが、フクシマで有機農業をされていた菅野正寿さんだ。ご存じの方も多いかもしれない。
 菅野さんが最初に登場する場面で、私の心はえぐられた。菅野さんがおっしゃっていたのは次のようなことだった。
 どうして原発が増えてしまったのか。地域の農業や林業(漁業だったか?)をないがしろにして、地方がそれで食えなくなっていったからだ。地域の農業や林業(漁業?)を再生することこそが、脱原発になる。
 東京で脱原発のデモや集会に混じっていたりすると、気持ちが沈んでいくことがある。何の活動もしていない私にこのようなことを言う資格はないと思うけれど、ついつい思ってしまう。今度の原発事故で明らかになったのは、地方の荒廃が原発につけ入る隙を与えてしまったという事実だ。原発は政府と電力会社の洗脳によってのみ増えたのではない。この社会の無関心が増やしたのだ。その無関心とは、 地域社会の現状に対する無関心だ。原発をなくすためには、地域社会の経済と尊厳をどうやって復興させるか、とセットにして考えなくてはならない。代替エネルギーを考えるだけでは不十分なのだ。とても難しい問題で、気が遠くなりそうになる。でも、都会に住む人もともにそれを考えなければ、原発は消えない。私自身、このことに対して、どうしていいのかわからないまま、何もしていない。けれど、それを考えないまま脱原発を連呼することも、できないでいる。(もちろん、脱原発活動をしている方で、地域を変えていく活動に取り組まれている方も大勢いると思う。でも都会には、そうでない人も大勢いる。)菅野さんの言葉と行動は、そんな私の心にぐさっと突き刺さった。
 私自身は、福島産や北関東産の農産物、東日本の太平洋産の海産物を日常的にできるだけ(やみくもに、ではない)買うようにしている。それが私なりのきわめて微力な脱原発活動なのだ。むろん、その地域の農産物海産物を買うか買わないかは、個々人の判断があっていい。私はどちらも批判されるべきではないと思っているし、どちらも他人に強制すべきではないと思っている。
 映画では、菅野さんが、ルシオさんというブラジル人青年の出すブースで、土壌除染をなしうる植物について、やりとりをする場面が映されている。菅野さんが帰ったあと、ルシオさんに岡村さんは話を聞くのだが、ルシオさんの言葉がまるで菅野さんが憑依したかのようなのだ。鳥肌が立った。岡村さんの映画は、こういう奇跡のような魂の交歓の場面を捉えてしまう。
 さらに驚くのは、そこにブラジル移民史の初志を重ねて幻視する岡村さんの目である。その日は、日本から初めての移民がブラジルの地を踏んだ日でもあったのだ。
 この作品は見る人の自分像が映る鏡のようだと、岡村さんは言う。まさに。私は自分の囚われているものを、思いきり見せつけられた。と同時に、どのような見方をされても、岡村さん自身が惹かれたものを大切にするというこの作品のあり方に、壮絶ささえ感じた。震災・原発事故以降、言葉を発することにためらいが消えない私だが、この作品を撮る岡村さんのようでありたいと心から思ったのだった。そしてこういう作品が存在することで、自分が少し元気になっているのを感じたのだった。
『リオ フクシマ』、東京圏ではメイシネマ祭2013で、5月4日(土)18:20〜にも上映があります。これを逃すと、しばらく上映予定はないそうです。

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