2011年7月20日(水)2011-07-20

 女子サッカー日本代表、その団結力、とてつもない諦めなさがどこから来るのかを考えると、最初に思い浮かぶのは、アルモドバル監督の『オール・アバウト・マイ・マザー』だ。あの団結力は、『オール・アバウト・マイ・マザー』を核をなす、「女たちの絆」に最も近い。映画の女たちは、互いが困っている・弱っているときにこそ、共感し助け合う。そこには利害感情がない。だからとてつもなく強い。
 それは、名誉の意識がつなぐ男同士の絆とは、そもそもの出自が違う。女にもともと備わっているという本質的な要素ではなく、「女」として生きてきた環境によって持つにいたった要素であることを、『オール・アバウト・マイ・マザー』は示している。日本の女子サッカー選手の絆と不屈さも、存在が無視されていることを前提として生きる者たち同士の、絆と不屈に私には見える。私の日常で言えば、つきあいのある出版社の女性編集者たちにも、同じようなものを感じる。だから、彼女たちは一般に、男の社員よりも不屈だ。一般的には男の社員が最後には、「会社の方針なんで」と会社の価値観に自分を寄り添わせることを選択してしまうところを、彼女たちはできるところぎりぎりまで戦い続ける。
 映画で言えば、溝口健二の『赤線地帯』なんかにもそれがある。そして、今、メキシコからそのような映画の秀作が登場した。23日からシネマート新宿で公開される『グッド・ハーブ』だ。
 世の中の流れから少し外れて生きている母娘とその息子の物語。母ララはメキシコにアステカの時代から伝わる薬草の研究者。主人公である娘ダリアは、幼い息子を育てるシングルマザー。母ララが認知症を患うなか、娘ダリアはそれまで知らなかった母の歴史と向き合っていく。それは、自分自身と向き合う過程でもあった。
 大きな物語が進展するわけではない。とても静かに、ゆったり、時間は流れる。ときおり映し出される植物の数々が、そのゆったりしたリズムの通奏低音を奏でる。その時間の中で、女たちがさまざまな会話を繰り広げる。
 この静かな時間の、何と心地よいこと。日々、重苦しい何かに圧迫されている現在の私には、心底、ひと息つける時間だった。
 最も美しいシーンのひとつが、ダリアが高齢の友だちであるブランキータ(この女優が素晴らしい!)の家の屋上で、仲間の女性も交えて3人でマリファナを吸いながら、おしゃべりの愉楽に浸りつつ、洗濯物を干す場面だ。『オール・アバウト・マイ・マザー』の、マヌエラ、ウマ・ロホ、ロサ、アグラードがおしゃべりを久広げる名場面を思い起こさせる。
 マリファナと書いたが、ここで登場する薬草は、近代社会では麻薬の類とされるものも含まれる。それらは、メキシコの先住民文化では、世界秩序のひとつだったのだから。
 この作品には、マリア・サビーナというおばあさんが何度も引き合いに出され、最後には映像が映る。幻覚キノコを扱う、実在した先住民の女呪術師である。欧米では、1960年代にこの人の存在がドキュメンタリーとなったことで、麻薬文化に火がつき、ヒッピームーブメントの原動力となった。ダリアはいわばヒッピームーブメント2世である。
 私は、1992年にメキシコ留学中、オアハカという先住民文化の濃い土地に旅行したとき、たまたま知りあったアルフォンスというオランダ人から、マリア・サビーナのことを教えられた。そのドキュメンタリーである本を示され、これは素晴らしい本だから日本語に翻訳してみないか、と言われて読んだのだ。(当時のメキシコにはこういうオランダ人やドイツ人がゴロゴロしていて、いまだヒッピー文化のまっただ中にあった)。そして、幻覚キノコの儀式への仕様は厳密なカレンダーと掟によって決められていて、それを守らないとまったく儀式としての効果がないことが語られていた。
 だからこの映画の醸し出す雰囲気が、懐かしい。大学にもヒッピー文化は色濃く残っていた。1990年代のメキシコはこんな感じだったよなあ、と思う。ある意味で、『アモーレス・ペロス』などような「男の子」映画よりも、メキシコっぽさを伝えていると思う。
 監督はマリア・ノバロという女性。女性の生き方を、妥協なく落ち着いた視線で描く。私が住んでいた1991年には『ダンソン』という映画が高い評価を受けていた。私も何度か見て、深い感銘を受けた。主人公の女性(確かシングルマザーだったような)が、昔流行ったキューバの「ダンソン」というゆったりしたダンスを手がかりに、親の過去へと向き合うもの。と、書くと、『グッド・ハーブ』と似ている。
 マリア・ノバロの映画がようやく日本で公開されて、本当に感激である。
 映画のサイトはこちら。何であれ、疲れている人は、「グッド・ハーブ」を摂取してみると、落ち着くだろう。

大江健三郎賞・公開対談のお知らせ2011-04-20

 私の長編小説『俺俺』が、今年の「第5回大江健三郎賞」をいただいたのですが、贈呈式に代わるイベントとして、5月19日(木)夜7時から、大江健三郎さんと私の公開対談が行われます。
 どなたでも聞きに来られますので、ご興味のある方は、下記の要領でお申し込みください。(応募者が定員を越えた場合は、抽選になるようです)。
           *
日時 5月19日(木)19:00開始(18:30開場)
会場 講談社 社内ホール(有楽町線護国寺駅)
●ハガキの場合
郵便はがきに「大江賞公開対談参加希望」と明記の上、住所、氏名、年齢、職業、電話番号をご記入ください。
宛先:〒112-8001文京区音羽2-12-21
   海外文芸出版部 大江健三郎賞公開対談係
応募締切:5月6日(当日消印有効)
当選は発送をもってかえさせていただきます。(5月9日以降発送予定)
●ネットの場合
次のサイトから申し込んでください。
http://www.kodansha.co.jp/boshu.html

もっと詳しい情報が知りたい方も
http://www.kodansha.co.jp/boshu.html
をご覧ください。

ブログの引っ越し2011-04-16


 これまで使っていたエキサイトのブログの、広告が鬱陶しくなり、アサブロに引っ越すことにしました。これまで同様、よろしくお願いします。
 より手軽なツイッターを使うようになってから、ブログの更新はまばらになっておりますが(これまで、1回のブログを書くのに1時間とか2時間をかけていたのです)、140字では展開できないこともありますので、折りにふれこちらでも書いていくつもりです。
 また、かつてサイトでお知らせしていた「新着情報」、つまり私が新しく書いた文章なり小説なりのお知らせも、こちらで行っていきます。発表から時間のたったエッセイも、問題のない範囲で掲載していく予定です。