宇良には、あらゆる観客をスー女にする才能がある2017-07-18

 白鵬が千代の富士の通算勝ち星1045勝に並ぶという大記録の達成を、宇良が「裏返した」(前日、白鵬は、宇良をすくい投げで破り1044勝目を上げた時に、「宇良を裏返したね」と言った)。
 宇良は連日の横綱戦で、名古屋場所9日目は日馬富士戦。もちろん初顔である。前日の白鵬戦で、横綱の圧倒的強さを感じたばかりで、少しでも自分の相撲が取れれば、と思うのが精一杯だっただろう。
 ところが、横綱のお株を奪うような低くてうまい立ち合いで、日馬富士の右腕を手繰ると、日馬富士がついていけないほどの素晴らしいはしっこさで体を開き、とったりで横綱を土俵外に振り回して出した。その瞬間こそ、気合の入った表情をしていたが、土俵を降りると、いつものキョトンとして小動物のような顔に戻る。
 そして、語り草となるだろう、殊勲インタビュー。小さな声でおどおどと答えるうち、唇がわななき始め、ついには素で泣き出してしまった。
 あの瞬間、「宇良、可愛い!♡」と思わないで入られた人は、どのぐらいいただろうか。大スター誕生の瞬間を目撃してしまった。解説の北の富士さんも「ダメだよ、泣かしちゃ。こっちまでおかしくなるじゃん」と言い、大相撲の将来を担う若きエースアナウンサー、佐藤アナも「私たちも涙腺が緩むような感じになりました」と打ち明ける事態に。宇良は、年齢ジェンダーかかわらず、観衆の誰もかもを「スー女」に変えて、スー女的相撲の楽しみ方をさせてしまうのだ。
 相撲好きの間では、幕下のころから面白い相撲を取る異能力士として期待が高く、番付を上げるにつれ、人気もぐんぐん上昇していった。体の小ささを補う、レスリングで培った特異な低い姿勢の立ち合い、後ろに270度くらいのけぞっても倒れずにまた元に戻れる体の柔らかさ、しなやかさ、背中側に回った相手に技をかける技能。唯一無二の力士である。
 けれど宇良の魅力は、それだけではなかった。鶴竜の後を継ぐような、動物的愛嬌に満ち満ちているのである。
 私が宇良に萌えたのは、十両に上がったばかりのころ。ピンク色をこよなく愛する宇良は、後援会からピンク色のマワシを作ってもらった。そのマワシが届いた日を、NHKの取材が捉えていた。付け人たちが大きく広げて伸ばしたピンクのマワシを前に、嬉しくなった宇良は、なんと両手を大きく広げて、マワシの上を転がるように、くるくると回って舞ったのである。鼻歌も歌っていたかもしれない。それはおどけて見せたというより、素で喜びのあまり踊ってしまった、という感じだった。可愛すぎた。
 以来、宇良の相撲とともに、宇良の仕草が楽しみになっている。高見盛みたいな魅力といってもいいかもしれない。
 今場所、やはり萌えたのは、6日目、一度も勝てない宿敵、貴景勝との一番。宇良は大学時代、貴景勝がまだ中学生の佐藤だったころから対戦したことがあり、そのときから大相撲に入って幕内に至るまで、貴景勝には勝てていないのだという。宇良とほぼ同時に十両に上がって出世していった佐藤は、明らかに宇良を強烈にライバル視していた。宇良だけには絶対負けないという、強い敵愾心を隠さなかった。そこには、おまえのほうが注目されてるけど、実力では俺のほうが上だ、おまえなんて相手にもしない、という傲慢なまでの自負がのぞいていた。
 その貴景勝に宇良は、今場所、初めて勝ったのである。立ち合い右に変わって腕をたぐって引き落とし。そのとき宇良は、さらに右上手を取ろうとしたのだが、もう貴景勝は落ちており、熱いものに触って手を引っ込めるように、慌てて両腕を上げた。嬉しそうな顔とともに。サッカーで、審判にファウルしていないことをアピールするような姿勢だ。
 いちいちこういう仕草に愛嬌が詰まっている。そしてそれが炸裂したのが、日馬富士から金星を挙げた後のインタビューだったというわけだ。
 幕内に上がったばかりの宇良は、まだ前に出る力が弱く、立ち合いでも相手を押し込めないどころか、しばしば相手の圧力に後退したり落ちたりした。ほとんど先手を取ることができなかった。
 そのころ宇良は、自分は変わった決まり手を狙っているわけではなく、本当は強い立ち合いから相手を一気に押し込んでいく相撲を取りたいし、そういう稽古をしている、というようなことを言っていた。
 それが実ってきたのが先場所だ。それで11番勝ったが、技能賞も敢闘賞ももらえなかった。
 けれど、今場所は先場所以上に、目に見えて前への圧力が増している。初日の相撲でそれを感じた。立ち合いもがっちり相手を止められるから、自分の得意な間合いで相撲を取れる。相手が宇良の姿勢を嫌がっているうちに、土俵際に追い詰める出足もついた。体重もだいぶ増えたという。宇良が地道に取り組んできたことが、実を結び始めているのだ。だから苦手な貴景勝にも勝ったし、金星も上げることができたのだ。
 宇良のこの控えめで自己顕示欲の薄い性格は、じつは北勝富士と共通するところがあると私は思っている。でも宇良は可愛いので、人気は爆発する。北勝富士も本当は可愛いよ。
 そんでもって今日10日目の高安戦もいい一番だったね。ああ、見てよかった、という充実感がある。ちびっこ大相撲に本物の大関が来た!みたいな対戦だった。あのぶつかりげいこみたいな、下がっての突進とか、終わってから引き上げる時の、花道で息荒くフーフー言いながら、道を間違えるところとか、宇良は全部が宇良。

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